FC2ブログ
QLOOKアクセス解析
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | top↑
夕暮れとヒグラシ
2012-08-26 Sun 00:08
10歳の頃

 8月25日・・まだまだ残暑厳しき毎日だが、夕暮れ時の風は心なしか涼しげで、かすかな秋の気配が顔を掠めていく。

 近所の夏祭りに足を運んだ、櫓も組めないくらいの狭い空き地、屋台の代わりに町内会の人たちがボランティアで作ってくれた焼きそばやポップコーン、本当にささやかな舞台だが、盆踊りの音色に太鼓のリズム、そして子供たちの楽しそうな笑顔、忙しい毎日にふと心癒される時間だった。
 気が付けば聞こえてくる蝉の声も盛夏のアブラゼミやミンミンゼミに代わりヒグラシである。

 「山のロープウェイ」という曲がある。僕の好きな曲の一つ、恥ずかしいが、夏の終わりに聴くと必ずといっていいほど泣けてしまう。

 別れた恋人の夢を見る、ふと懐かしくなって本棚のアルバムを開いてみる。ロープウェイに乗り、二人で手をつないで目指した山の頂上、光り輝いていたあの頃の思い出がアルバムの写真からよみがえってくる・・・そんな詞である。

 夏の終わりの淋しげな雰囲気が好きだ、それは一日で言えば暑さのすこし和らいだ夕暮れ時であり、情景で言えばシーズンも終わりにかかった海水浴場の夕凪の景色だったりする。夕暮れ時に山から聞こえてくるヒグラシの声はどうしてあんなに切ないのだろうか。

 小さい頃、人見知りだった僕は小学校の2年生までは、学校に行ってもほとんど誰とも口をきかなかった。いや、きけなかったのである。
 幼稚園に入園した直後に重いはしかに罹り、二週間余り休んだ僕は「友達」というコミュニティーに入り損ねてしまった。
 入園式以来久しぶりに登園してはみたものの、そこにはすでに様々なお友達グループが出来上がっており、僕は内気な性格も相まって完全に孤立してしまった。幼稚園に行っても話せる友達がいない、これは子供心にもけっこうきつかったのを思い出した。

 孤独というのは決して一人でいることを言うのではない、集団の中での疎外、孤立する事を指す。
 みんなが話しているのに自分だけが中に入れないから「孤独」なのだ。このスタートダッシュに失敗した僕は、その後克服するのに5年近くの年月を要した。
「友達」と呼べる仲間ができ、学校が初めて楽しいと感じたのは小学校4年生の頃だったと思う。

 人間とは変われるもので、その後僕は人前で話すことが好きで好きで仕方がない人間になるのだが、夏祭りの喧騒の中で自分が変わることができたきっかけとなる一つの出来事をふと思い出した。

 本当に遠い記憶だが、それは生まれて初めて親元を離れて参加した少年団のキャンプ体験である。
 記憶も全体的にあいまいで、断片的にしか覚えていないのだが、たしか小学4年生の夏だった気がする。
 もちろん内気で友達づきあいの出来なかった僕である。最初はそんなものに行きたくはなかった、半ば強制的にいやいや参加したように思う。

 名前は「とびうお少年団」といい、日頃から参加していたわけではない、2泊3日、その夏キャンプだけの特別参加いわば「お試し体験」のような感じだった。

 記憶はキャンプ場に到着したあとから始まる。少年団はいくつかの班に分けられ、僕は分けられた班の最年長だったことから自動的に班長を命じられたのだ。

(班長・・・できないよ・・・)

 と内心は心穏やかでなかったが、最年長とあらば仕方がない、断る理由も見つからなかった。

 そのグループにある女の子がいた。学年は一つ下の3年生、名前も顔も忘れてしまって頭の中で映像化しようとしても顔が浮かんでこないのだが、印象を挙げるとすると、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる「猫娘」のイメージだ。
 彼女は何しろ明るく元気で、僕を含めた6名ほどの班員をいつでも楽しく盛り上げてくれた。

 僕は初対面の後、心の中で

(楽しい子だな、一緒の班でよかった)

 と感じたのを思い出した。

 さて、キャンプ場に着くと班ごとにバンガローがあてがわれ、そのバンガローの中で飯盒炊爨の役割分担を決めることになった。

 僕は班長だったが、リーダーシップも取れず、どうしていいか分からずにいた。

 その時である、まごまごしている僕に猫娘が人懐っこい笑顔で話しかけてきた。

「ねえ、ハンチョコチョ」
「えっ?」
「班長だからハンチョコチョって呼ぶからね、いいでしょ?」
「あ、う、うん」

 僕は本当に戸惑った、理由の一つは女の子と話した事がほとんどなかったからだ。男の子の友達すらいなかった僕はまして女の子の友達などいるはずもなく、当然のごとく女の子と会話をするという経験がほとんど皆無だったのだ。

 そして、もう一つの理由は、僕は今までこれほど屈託なく初対面の相手に笑顔で話しかけてくる人間に会ったことがなかったのだ。性格と言ってしまえばそれまでだが、驚きだった。大人の言葉で言えばカルチャーショックである。
 当時の僕は誰かに話しかけるにはものすごい勇気と心の準備を必要としたのだ、ましてや初対面の相手などもってのほかである。

 僕にとって猫娘は非常に新鮮な驚きだった。

「ねえ、ハンチョコチョ、お願い、役割決めて」
「えっ」
「あとみんな2年生と1年生だから、たよりにしてるから」
「う、うん」

 猫娘は副班長だ、そしておそらく、僕は初めて年下から「頼られる」という経験をした。とても嬉しかったのを覚えている。

 大人の目で見るとこういうのを「成長」というのかもしれない。

 僕は何だか少しこそばゆい気持ちになりながらも班員を集めて、慣れないながらも司会をし、班員の役割分担を決めたのだ。
 1年生や2年生(こちらももちろん顔も名前も覚えていないが)が僕の顔を見上げて聞いてくれているのがこれまた少し照れくさかった。

 さて、記憶はここからまた飛び、班員みんなで作ったカレーライスを食べている場面となる。当然この6人だけで作れるわけもなくおそらく大人のリーダーが手伝ってくれたのだとは思うが、その部分の記憶はない。

 僕らは夏の夕暮れのキャンプ場でカレーライスを食べている。
 空は夕焼け、赤と紫が混ざったような美しい彩雲が浮かぶ。
 そして、山からはヒグラシの声が・・・

 猫娘が人懐っこい笑顔で言った。

「おいしいね、ハンチョコチョ」
 
 僕も心からの笑顔で返した。

「うん、おいしいね」

 遠い記憶だけにかなり美化されているかもしれないが、夏祭りの光景が偶然掘り起こしてくれた大切な記憶。
 もう何十年も経っているのだ、このまま美化して飾っておいてもきっと許してもらえるだろう。

 夏の夕暮れとヒグラシの声は素敵な演出家である・・・



関連記事
別窓 | 随筆 | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
<<居酒屋パブリックビューイング | つれづれペンペン草  おのみちたかし | 「G」-クライシス (後篇)>>

管理者だけに閲覧

トラックバック URL

FC2ブログユーザー専用トラックバック URL
| つれづれペンペン草  おのみちたかし |

検索フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。