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はい!もうちょっと元気よく!
2012-07-04 Wed 02:43
36歳の頃

 物事には順序というものがある。

 至極もっともな話だ。
 料理人の世界ならば掃除や洗い場に始まり、次には食材の買い出しと仕込みを任されるといった道であろうか。
 TV業界ならばアシスタントディレクターとして寝る暇もなく下積みを重ね10年後にようやくディレクターに、さらに10年後にはプロデューサーになるといった具合であろう。
 そうやって少しずつ仕事を覚え人は一人前の職業人になっていくのだ。

「えっ、君、大型持ってないの?」
「あ、はい」
「そんな人見たことないよ」
「だめですか?」
「だめ・・ってわけじゃないけど・・」
「ないけど・・」
「難しいよ、合格するの」

 10年余り昔、僕の心の中にある想いがむくむくと湧き上がった。

(電車の運転してみたいなぁ・・)

 小さい頃から電車が大好きだった、できれば電車の運転がしてみたい。しかし、こいつはどうやら難しそうだ。インターネットで電車の教習所を検索したがそんなものはないらしい。確かに人の命を預かる大変な仕事である、仮免をとっても路上教習に出ることもできない。専門の学校で何年も勉強し、鉄道会社に就職し、駅の業務などを経てというのが「順序」であろう。

 だが、僕の気持ちはますます盛り上がる。人間、できないとなるとますますやってみたくなるものなのだ。
 電車の運転というハードルは棒高跳びのバーくらい高いことが判明した。僕は背も高い方ではないし、垂直跳びも現在なら20㎝と言ったところだろう。僕は泣く泣くあきらめた。

(よし、それならバスはどうだ?)

 路線バスの運転手さんはとてもカッコイイ、レールのない場所をあの大きな車体を自由自在に操るという点からすれば、技術的には電車の運転よりも難しいかもしれない。
 観光バスもカッコイイ。子供の頃、バスで遠足に行くと、日光のいろは坂のような難所を見事な運転さばきで走っていく運転手さんの後ろ姿と白い手袋、さらにはバスガイドさんとのなにやら秘密めいた業務連絡にいつも憧れに近い思いを抱いたものだ。

 またまたインターネットで検索すると、バスは免許をとれば運転ができることが判明した。免許は教習を受けるか試験場での一発試験である。一発試験は教習所の卒業検定にあたる。

(よし!これだ!)

 というわけで、僕は東京にあるとある教習所の門をたたいた。冒頭の会話は初回の教習の時のものである。

 この時の僕の免許は普通免許。教官の先生がおっしゃることには

「普通は大型免許とって、何年か乗った人が受けるもんだよ」
「そうなんですか」

 たしかにちょっと前までHONDAのシティーに乗っていた僕である。排気量は1300、しかもオートマだ。いきなりバスはこれまたハードルが高い。飛びぬけて運転技術が秀でているかというと、愛車シティーは壁やガードレールと何回もお友達になり新車3年目にして傷だらけであったような気がする。
 また、車を停めて公園のベンチで昼寝をしていると、何やら物音がし、何だろうと起き上がった瞬間、僕の目の前を愛車がレッカーで連れ去られるのを見た記憶があるところから、極めて高い順法精神があるとも思えない。
 電車ほどではないが、どうやらその挑戦はオリンピックの走り高跳びに挑戦する中学生、はてまた高尾山しか登った事がないのにK2登攀を試みるにわかアルピニスト、水泳帽一本線、学校プール3級の小学生ドーバー海峡横断にトライ、などその無謀さを例えれば枚挙にいとまがないようだ。

 というわけで、僕は出鼻をくじかれた気持ちでうなずくのであった。

 さて、初めて教習のバスに乗り込む、運転席に座る、これだけでドキドキである。さらにちょっぴりウキウキでもある。

(やった!これからバスを運転するんだ!)
(教官に気付かれないよう、心の中で停留所のアナウンスするぞ)

 何とも不謹慎な教習生である。

「じゃ、エンジンかけてみて」
「はい!」
「どうしたの?」
「どうやってかけるんですか?」
「・・・」

 教官もあきれ顔である。
 普通車と違ってキーの差込口が複雑でよくわからないのだ。大型の経験がないとこういった点でまずいわけだ。
 教官もあきらめた様子で幼稚園児に教えるがごとく優しい心持ちでの指導にシフトチェンジしてくれた。

「はい、じゃあ、すたーとさせてみまちょうか・・」
(教官の心の言葉を文字にするときっとこんな感じ)

「あ、バスはね、ロー発進しないの、セカンドで発進するの」
「そうなんですか!!!」

 聞く事すること驚きの連続であった。

 何はともあれ僕の「バス」は教習所のコースの中を走り始めたのだ。

 ところがである!運転の難しい事!難しい事!

 まず、当然ながらマニュアル車であるのでギアチェンジをしなければならない。普段からオートマ車に慣れ切ってしまっている僕にとっては忙しい事このうえない。閑職に追いやられて10年経つ公務員がいきなり兜町のトレーダーに転職したような騒ぎだ。

 僕はエンストを何度となく起こしてはセカンド発進を繰り返す。

 さらに難しいのがカーブの曲がり方だ。
 皆さんもバスの前方に乗って見た経験がおありと思うが、大型車は内輪差が大きいため、大きな円を描くように曲がらなくてはたちまち横っ腹を擦ってしまう、実際の路上なら巻き込み事故になる。

「もっと前まで出て大きく曲がらないと擦っちゃうよ」

 教官も生きた気がしないらしい、補助ブレーキの嵐である。
 しかし、この「前に出る」というのが未経験者の僕にはとても難しい。教習所のコースは狭いので、コースのすぐ脇にフェンス1枚隔てて建物が建っている。ここにカーブがあるので曲がるには前方の建物に突っ込むくらい直進してハンドルを切らなくてはいけないのだ。
 これが怖い!

(ぶつかっちゃうよー)

 というくらいの思い切りがないと人や自転車を巻き込んでしまう。

(えらいこっちゃ えらいこっちゃ)

 僕は頭の中で停留所のアナウンスよろしく(えらいこっちゃ)をくり返し放送していた。

 口の中が渇いて必死の運転。
 何度となく縁石に乗り上げ。
 数回道路わきの樹木の葉っぱを粉砕。

 TVゲーム(古いですね)ならば、完全に「GAME OVER」である。スーパーマリオなら10回は死んでいる。

 それでも3周ほど何とかまわり、ようやく慣れてきた時、教官の先生がこうおっしゃった。

「はい、もうちょっと元気よく走ろうか!」

 これはこのあと教習を続けていく中で最も多く言われた台詞である。

 つまり、運転が下手で怖いものだからスピードが出せないのだ。おそらく時速10キロくらいで走っていたのではないだろうか。僕の「バス」は自転車に抜かれる速度なのだ。

「ほら、バックミラー気にしてごらん」

 教官の声に促されてふとバックミラーを見て僕は思わず声を上げた。

「ひえー!!」

 僕の「バス」の後ろに大渋滞が起きていたのだ!
 後ろに走っているのも当然教習車だ、車体の長いバスを追い抜くなどできないのであろう、見る限り7~8台、バスの後ろに普通教習車が連なっている。

「ねっ」
「はい!」

 この日を含めて計4回ほど教習を受けた末、僕のバスへの挑戦は頓挫した。その間毎回のように言われたのが先ほどの台詞であった。

「はい、もうちょっと元気よく走ろうか!」

 バスの運転をあきらめた僕は、その後運転技術的にはさらにハードルを下げ「普通二種免許」にシフトチェンジした。タクシーの運転免許である。それでも僕にとってはオリンピックのハードル競技程度はあっただろうか。教習を受けただけでは駄目である、運転免許試験場での実地試験の合格がゴールの条件となる。

 ゴールテープを切り、免許を取得するまでに4脚ほどハードルを倒したことを記しておきたい。
 そして、タクシー教習の時にもこう言われた。

「はい、もうちょっと元気よく走ろうか!」

 公共交通機関を運転される方は本当に偉大です。





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はじめまして。

前回の記事で、すごい内容を書かれていらっしゃるなあと思っていましたけど、今回はまた、実感がこもったお話ですね~。面白いですよ。
バスの運転手さんはいつも狭い道、両側に自転車や車があって通りにくい道をよく事故を起こさないで、走れるものだと感心してみています。本当に偉大だと思います。
2012-07-06 Fri 20:07 | URL | りー #-[ 内容変更] | top↑

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