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幻の先生
2012-05-06 Sun 23:20
6歳の頃

 大学の掲示板を見に行った時、学業にあまり熱心でなかった僕はまずは休講の張り紙を探す。見つけた瞬間心の中で小さくガッツポーズ、公然と授業が休めるのは不謹慎ながら「得した」気分であった。大学の授業は大抵は90分、2コマ続きだったりすると、3時間も自由時間が降ってくるわけである。

友人の前では

「この教授は休講が多い、けしからんな」

 などと嘯きつつ、心の中では(さて何しようかな)とウキウキ気分に浸るのである。

 さしてすることもないのだが、この降って湧いたような公然の自由時間というのは社会人になるとなかなか体験できないもので、強いて挙げれば台風が上陸する日に「今日は定時前に帰って良し!」などという指令が出た時くらいだろうか。

 高校時代に遡ると、先生が休みになると「自習」ということになる。大学と違って外へ出ることが出来ないので「ウキウキ感」はさほどでもないが、それでも教室には「やったー」という歓声が上がる。

 僕の通っていたのはとある都立高校で、当時の都立高校は本当にいい加減だった。僕の高校には掃除当番が無く、一学期に一度、学期末の大掃除にしか掃除をしなかった(これ、信じられないでしょうが本当です)ので教室は埃だらけゴミだらけであった。

 雨が降ると必ず休む地学の先生がいた。

「今日は大雨だぞ」
「地学は自習だな」

 などと話しているとほぼ9割方その通りになる。

 進路指導などというものは皆無に等しく、僕が大学に合格した際、一応担任の先生には報告しておくかと思い数学の教官室に出かけた際も。

「先生、大学合格しました」

 するとこの担任のS先生、椅子に座ったままやおら振り向くと、一言。

「あ、そう」

 とのたまった。

 もちろん中には熱心な先生もいた事はいたのだが、僕の教わった先生たちは典型的な「でもしか先生」ばかりであった。

 時代はさらに遡り小学校一年生。

 この頃の僕はもちろんまだ純朴な少年であり、毎日マジメに勉学にいそしんでいた。何より担任のM先生が大好きだったのだ
 50前後のベテランの先生で面白くてとても優しかった。それでいて怒るときはしっかりと怒る先生で、あまりにひどいいたずらをすると「破門」といって、教室を追い出されて隣のクラスに入れられて放課後まで帰って来られなかった。現代なら「人権問題」と非難もされようが、当時は「破門されないようにしなくちゃ」と背筋を伸ばしたものだ。

 二学期のある朝、教室に校長先生が入ってきた。

「あれ、M先生どうしたのかな」

 僕はちょっぴり不安になり校長先生の顔をじっと見つめる。

 校長先生は穏やかな口調でこう話し始めた。

「おはようございます、今日、担任のM先生は風邪でお休みです、1年1組のみなさんにとって、M先生がお休みになるのは初めてですね。今日は午前中、代わりの先生が二人、2時間ずつ教えてくださいます。心配しないでしっかりと勉強してください」

 校長先生が教室から出ていくと教室中がざわざわとし始めた。

「M先生お休みだって」
「大丈夫かな」
「M先生じゃないといやだよ」
「あたしも」

 僕も含めてみんなが心配になった、みんな先生が大好きだった。みんな不安そうな顔をしている。人見知りの僕は誰よりも心配だった。

 M先生はこれまで休んだことが無かったので、1組の僕らにとっては違う先生に教わるというのは音楽の時間を除いては初めての経験だったのだ。

「だれが来るんだろう」
「もしかして、K先生?」

 K先生とは泣く子も黙る超スパルタ主義の先生で2つ隣の3組を担任していた。そのスパルタぶりを噂に聞くにつけ(ああ、1組でよかった・・)と常に僕らは胸をなでおろしていたのだ。

 今考えれば他のクラスの担任の先生が来ることはまずないのだが、僕らは心から心配になった。

 1時間目のチャイムが鳴る。僕らは緊張しながら先生を待った。
 教室の扉が開く、固唾をのんで入ってくる先生を僕らは見つめた。

「おはよう!」

 入ってきたのはK先生ではなく、初めて見る先生だった。40歳くらいだろうか、怖くはなさそうだ。

(よかった、K先生じゃなくて)

 僕を含めてみんなそう思ったはずだ。

 先生は挨拶を終えると僕らにこう話した。

「今日は勉強を教えに来たんだけど、皆さんと会うのは初めてだし、めったに会うこともないので今日はお話を聞いてもらおうと思います」

(おはなし?)

 僕らがきょとんとしていると、先生は手提げ袋の中から大きな画用紙のようなものを出すと

「先生が作った紙芝居です」

 といって紙芝居を始めたのである。僕のかすかな記憶では休み時間をはさんで4つの紙芝居を聞かせてくれたのだ。僕らは夢中になって話を聞き入った。学校の授業時間に紙芝居を見せてもらえるなんてこれまた初めての体験であった。

 1つだけストーリーを覚えていた。

 題名は 「かばのうどんこ」

 男の子がけんかをして道沿いのコンクリート塀にケンカした相手の名前をロウセキで大きく落書きする 

「こんどうのばか」 

 近藤君とケンカをしたわけですね。
 そこにお蕎麦屋さんが通りかかる。
 逆方面からやって来たお蕎麦屋さんの出前持ちのお兄さんが落書きに気付き目で追いかける、声に出してみる。

「かばのうどんこ」

「なんだい、こりゃ?」

 というお話である。
 なんてことない話だが、この先生とても読み方が上手で教室中が笑い声に包まれた。
 あっというまに二時間が過ぎた、もちろん紙芝居以外にも何かやったのだと思うが、お話の印象が強くて思い出せない。

「じゃ、これでおしまい」といって先生は出て行った。

「楽しかったな」
「うん、勉強より楽しい」

 中休みの時間、僕たちは紙芝居の余韻に酔いながら話した。

「次はどんな先生がくるのかな?」
「うん、さんすうだからぷりんととかやるんじゃない」

 二時間も勉強をやらずに楽しい紙芝居が聞けたのだ、子供ながらに次の二時間は勉強するに違いないと思うのは自然だろう。

 三時間目のチャイムが鳴り、再び教室の扉が開いた。
 先生が入ってきた。
 一瞬ぼくらは驚き先生を見つめた。
 髪の毛は真っ白、おじいちゃんといっていい、顔はやせていてしわが沢山ある。しかし、ぼくらが目を丸くしたのは先生の姿かたちではなかった。

 先生の肩に小さな子供が乗っているのだ。
 僕らは本当に目を丸くしてじっとその子を見つめた。
 すると、その子が突然しゃべりだした!

「こんにちは!はじめまして!」

 よく見ると、何だか変だ。
 口のあたりが割れているように見える。
 そう、その子は腹話術の人形だったのである。
 何と二人目の先生は腹話術の先生だったのだ!

 教室中から歓声が上がった。
 歓声に応えるように人形がしゃべる、自己紹介から始まってとにかくよくしゃべる、もちろん先生が声を出しているのだが、一年生にとってはそんなことわからないわけでひたすら楽しいだけである。

 先生は最初から最後まで腹話術を使って授業をした、授業の内容なんてまるで覚えていない。僕らはその楽しい話芸の世界に引き込まれ、魅了された。これまたあっという間の二時間だった。

「じゃ、これでおしまい、さようなら」

 腹話術先生は人形と一緒にお辞儀をして教室を出て行った。

 何だか夢のような半日が過ぎ、給食の時間は校長先生が来てくれた。

 僕らは給食を食べながら話した。

「今日はおもしろかったね」
「うん、最高だったね」

 僕を含めたクラスのみんながきっとこう思っていたんじゃないかと思う。

(M先生は大好きだけど・・たまには休んでもいいかも)

 しかし、僕らがこの二人の先生に会うことは二度となかった、学校の中で見かけることも二度となかった。たまたま、何かの機会に来ていた嘱託の先生に校長先生が授業を頼んだのであろうか、今となっては想像するしかない。

 僕にとって記憶に鮮明な「幻の先生」である。


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爆笑ですww

面白い先生ですね!

M先生は戻られたんですよね?

そこが落ちかと思ったので...

S先生も好きですけど(嘘ッ!)
2012-05-08 Tue 19:51 | URL | にーチェ♪ #-[ 内容変更] | top↑
ごあいさつ
こんにちは
はじめまして

良い先生と巡り会えるか会えないかで、人は大きく違ってきますよね。自分は概ね良い先生であったのですが、小学3年の頃、いわゆるスパルタ先生にあたってしまいました。あの時代は恐かった…。それでも、幸い4年5年6年と、とても良い先生に巡り合えたので、何とか人格は保つことができてます。たぶん。それに比べるとあなたは、幸せそうですよ。いい加減な高校の頃も含めて。それと『かばのうどんこ』、とても面白いショートショートですね。もし機会があれば、あなたもショートショートに挑戦してみては如何ですか。きっと良いものが仕上がると思いますよ。
2012-05-07 Mon 09:52 | URL | ジョン #-[ 内容変更] | top↑

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